当時世界は急激な気温上昇の最中にあった。作物は枯れ、生態系に変化が起き、深刻な食糧危機に直面したが解決の糸口は見えなかった。陸地も徐々に、しかし確実に減少していく中で、生存をかけて人類は二つの勢力に別れ、熾烈な争いを余儀なくされていた。ナギとナミはその1勢力主要国家の人間だったようだが、祖国を捨て戦場を逃れ、戦火が及ばない地域を渡り歩き、考古学者として世界を探検していた。人類の歴史はおろか当時を生きる文化すらも地上から消えようとしていた。二人は大陸を捨て海に出た。
たどり着いた小さな島国で二人は不思議な石を発見する。石の場所は、いまこの世界の京都、嵐山渡月橋近くのとある神社の近辺に位置していた。もちろん今の京都とその様子は全く異なっているが、川やそれを超える橋、村の位置などは近しいようだ。石には不可思議な言語と記号が曼荼羅のように埋め尽くされ、当時の文明のものではないことは明らかだった。まるで鎖のように連なる不思議な石は、村の人々から鎖目石と呼ばれていた。
戦火及ばぬ豊かな自然と暖かな暮らし、鎖目石に魅了されたナギ、ナミは村の離れに居を構え、石の言語解析を進めていく。やがて二人は膨大な記号の中から数字に相当する文字を発見。続いてそこから地球の数学、物理、化学に用いられる記号と同等の役割を見出し、石に高度な科学が描かれてることを導き出す。幾度もの四季を重ねていた。
穏やかだった村にも戦火は近づいてきた。二人は男子を授かる。名をヒルコと名付け大切に育てた。二人は、これまでの研究者としての人脈を頼りに科学に関する書籍を世界中から入手し、ヒルコを科学者として教育した。もう後戻りできない世界の混乱と恐怖の中で、二人はヒルコを育てながら寝る間を惜しんで言語を解析していく。
絶望的な世界の状況の中、石に記載された膨大な言語と図は、とある世界の設計図であることに二人は気付く。当時の科学からは考えも及ばないものであったが、それは確実に世界の構築方法だった。石の言語で「電殿神庭」と書かれていた。
ナギ、ナミが解析を急ぐも地上の気温上昇は止まることを知らず、自然豊だった島国の作物も枯れていく。感染症が流行し、人々は日に日に死に絶えていった。それでも親子三人は諦めることなく、電殿神庭の創造を、三人で争いのない世界で暮らすことを夢見て解析を続けた。どんな時も前を向き生きることを二人はヒルコに教えた。
鎖目石の全ての言語ルールを解明し翻訳辞書を完成させた頃、ナギとナミもついに命を落とす。ヒルコは15歳だった。