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「ここデあなたハ神を目指すのダ」とヒルコにmicoは呟いた。

楼門を背に立つ二人の前には、広い大地と太陽があった。耳をすませば、遠く鳥獣の声が聞こえる。銃声、爆撃、悲鳴、壊れゆく世界の叫びはここには聞こえない。父母の意志を受け継ぎ、ヒルコが半生をかけ願い続けた世界、Garden。

自ら作ったこの世界を、一歩、一歩、と踏みしめながら、ヒルコは夕暮れまで大地を散策した。豊かな大地と澄み渡る空、祝福の日差し。黒い雨も薬莢の臭いもない世界。

日が暮れる頃平野に出ると、micoは地面に描かれた巨大な正円の中央で儀式を行っていた。直径100mほどもあろう正円は、強固なしめ縄によって形作られていた。

「これハ土俵。ここであなたハ戦わなければならナイ。信頼する仲間ト。Gardenに招きなさイ」とmicoは呟いた。

Gardenのエネルギーは、土俵での戦い「電殿神戦」という神事・決闘によって賄われること、電殿神戦で発生するエネルギーは五穀豊穣の願いとして変換され、この世界は発展していくこと、そして勝者は不思議な力を授かり神へと近づいていくことを、micoはヒルコに説明した。

夕暮れ赤く染まる空の下、micoは土俵の中央で軽やかな舞いを舞うと、土俵の縄は一瞬、強烈な光を放ち、空から「トントトントントン、トントトントントン、トントトントントン……」と太鼓の音が鳴り響いた。

「此処ハ、神を目指ス 神聖なる世界。 電殿神戦を制した者ハ、 神となり願いを叶えることができル。」

-----私たちが転生した時にも聞いた言葉だ。

ヒルコの願いは一つ、戦争のない皆が笑って暮らせる世界をつくること。現実世界は壊れようとしている。彼に迷いは無かった。

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翌日からヒルコは、仲間をGardenに迎えるために、彼らの楼門の鍵を作った。一つひとつ心を込めて。これまでの感謝を込めて。理想の世界を想いながら。父母の笑顔を思いながら。

ヒルコがまず声をかけた男の名はダイコといった。ダイコは村のリーダーで人望厚く、ナギ、ナミとも親交があった。二人の葬儀はダイコが取り計らい、墓を掘るのも手伝ってくれた。料理が好きで、両親の死に悲しみ暮れるヒルコによく手料理を届けてやり、一緒に食べた。ダイコの料理はほっぺたが落ちると評判なほどの腕前で、ヒルコが好きな鯛・海の幸を材料に心を込めて作られた料理たちは、ヒルコの気持ちを温かくした。食事をしながら二人は打ち解け、様々な話をするようになる。ある日、こんな村の外れに住んで毎日必死に何をしてるのか、とダイコが尋ねると、ヒルコは月明かりの下、ダイコを蔵に案内した。そこには鎖目石と、親の遺した膨大な設計図があった。ダイコが蔵に入ると、鎖目石は鈍い光を放った。両親の研究の正体、Gardenの可能性についてヒルコはダイコに明かした。信じないかもしれないが、と断りながら。ダイコは真摯に話を聞き、以降ヒルコの設計を応援するようになる。

-----ダイコの家紋には見覚えがある。Yoaと同じだ・・・。ということは彼はYoaの遠い先祖である可能性が、極めて高い。